淳子と花物語 +10/桜田淳子

Viictor Entertainment VICL-62513
発売日/2007年8月22日
オリジナル盤発売日/1974年1月10日
(1) 花物語
(2) パイナップル・プリンセス
(3) 秘密のいろ
(4) 17才
(5) わたしの早春賦
(6) 日ぐれの少女
(7) 芽ばえ
(8) ふたりはふたり
(9) のっぽの恋人
(10) ワンワン・ワルツ
(11) 恋のふくらみ
(12) てんとう虫のサンバ
<ボーナストラック>
(13) しあわせの一番星 ・・・「グランド・デラックス」(1974年7月5日発売)収録曲
(14) 恋人たちの港 ・・・同上
(15) 恋はみずいろ ・・・同上
(16) 小さな恋のメロディー ・・・同上
(17) 心の旅 ・・・同上
(18) 友達よ泣くんじゃない( ・・・同上
(19) 学生街の喫茶店 ・・・同上
(20) 個人授業 ・・・同上
(21) 花物語(リミックス) ・・・「わたしの青い鳥 桜田淳子 REMIX & BEST」(1992年12月16日発売)収録曲
(22) 花物語(オリジナル・カラオケ)
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(1)(3)(8)(22)・・・作詞:阿久悠、作曲:中村泰士、編曲:あかのたちお
(2)・・・ 作詞・曲:Richard M.Sherman、訳詩:漣健児、編曲:あかのたちお
(4)・・・ 作詞:有馬三恵子、作曲:筒美京平、編曲:高田弘
(5)・・・ 作詞:たかたかし、作・編曲:高田弘
(6)・・・ 作詞:阿久悠、作曲:森田公一、編曲:あかのたちお
(7)・・・ 作詞:千家和也、作曲:筒美京平、編曲:高田弘
(9)・・・ 作詞:阿久悠、作曲:中村泰士、編曲:高田弘
(10)・・・作詞・曲:Bob Merrill、編曲:あかのたちお
(11)・・・作詞:桜田淳子、作・編曲:高田弘
(12)・・・作詞:さいとう大三、作曲:馬飼野俊一、編曲:高田弘
(13)・・・作詞:安井かずみ、作曲:筒美京平、編曲:高田弘
(14)・・・作詞:山上路夫、作曲:森田公一、編曲:高田弘
(15)・・・作詞:Pierre Cour、作曲Andre Popp、編曲:あかのたちお
(16)・・・作詞:Gibb Barry Alan Gibb、作曲:Gibb Maurice Erest、訳詞:山上路夫、編曲:高田弘
(17)・・・作詞・曲:財津和夫、編曲:あかのたちお
(18)・・・作詞:阿久悠、作曲:鈴木邦彦、編曲:あかのたちお
(19)・・・作詞:山上路夫、作曲:すぎやまこういち、編曲:あかのたちお
(20)・・・作詞:阿久悠、作曲:都倉俊一、編曲:高田弘
(21)・・・作詞:阿久悠、作曲:中村泰士、編曲:米光亮

1974年初頭に発売された桜田淳子のサードアルバムは、やや旧時代的な歌謡メロや女性コーラスを極力取り止め、ストリングアンサンブルを中心に、ロック風なギターフレーズも取り入れる等、今まで以上にポップで垢抜けた作品に仕上がった。
また、オールオリジナルで構成されていた前2作と打って変わって、本作では収録曲中半数の6曲がカヴァーという構成になっているところも特徴的だ。
カヴァー曲を取り入れるのは、その歌手にとってはリスクが伴う作業で、古い楽曲を斬新なアレンジで焼き直し、あたかも自分の曲の様に表現できれば大成功だが、対象が同時代の曲だった場合等は、完成度の高いオリジナル楽曲と比較されるが故、凡庸な印象を持たれることも多い。
彼女自身「色んなタイプの曲を歌うことで可能性を追求されていたのでは」と、ロングインタビュー(ライナー参照)で語っているが、むしろアルバム製作コスト・期間の圧縮というレコード会社におけるメリットを優先した結果と思えてならない。
そんな制約がある中でも、スタッフが知恵を絞り、なかなか聴き応えのある作品に仕立てたのではないだろうか。

<オリジナル盤収録曲>
オープニングの(1)は、初のオリコンベスト10入りを果たした彼女の代表曲の一つ。前作に収録された「淳子の花物語」に歌部分を加え、セリフの長さ・テンポのバランスを調整し、完成度を高めている。
米国出身の歌手アネット・ファニセロが1960年に歌い、1961年に田代みどりが日本語でカヴァーした(2)は、南国ムードたっぷりな古い原曲を70年代ポップス風に新調したアレンジが格好良く、本アルバムのカヴァー曲の中では出色の出来だ。桜田淳子の明るいキャライメージともピッタリ合っており、もはや彼女のオリジナル曲と言って良いほど新鮮。
年代層によるかも知れないが、彼女と同世代のリスナーであれば、オリジナルを凌駕した印象を持つのではないか。
中村泰士氏提供の(3)は、前2作でも時折見られた純和風歌謡であるが、本アルバムの中ではやや浮いてしまっている印象がする。この頃になってくると中村作品と桜田淳子の成長とのギャップを感じるのだが、その辺については、また別の機会に。
(4)は南沙織が1970年に大ヒットさせたデビュー曲のカヴァー。アレンジやキーは原曲をほぼ踏襲しており、元来の歌詞・メロディーの良さも相まって、オリジナルと比較してもさほど遜色ない。低音域がほとんど歌えていないのはご愛嬌だが、それが却って大人の曲を背伸びして歌っている様なリアリティを醸し出し、思わず心をくすぐられてしまう。
季節の変わり目と少女の成長をオーバーラップさせた歌詞と、キャッチーなメロディーの組み合わせが素晴らしい(5)は、(2)と共に本アルバムのベストトラック。高田弘氏が手がけるストリングスのオブリガードも健在で、地味めなタイトルをもう少し工夫すれば、シングルカットしても十分にヒットしたと思わせる傑作だ。
(6)は、自身がレギュラー出演したドラマ「てんつくてん」(1973年NTV)挿入曲のカヴァーで、70年代の懐かしい夕刻の情景が瞼に浮かんでくる様な佳曲。本来ならば、ドラマにレギュラー出演していた桜田淳子や森昌子が歌ってしかるべき曲なのに、どういう訳か笠井マリという新人歌手のデビューシングルのB面に収録された。
麻丘めぐみのデビュー曲をカヴァーした(7)は、原曲よりアップテンポでエコーも控えめだが、初期麻丘めぐみ楽曲の過剰とも思えるエコーが生み出す独特の浮遊感が失われており、余りピンと来ない。
続く日本版「電話でキッス」風な(8)と「花物語」のB面(9)は、この時期多く採用されたボーカルのオーバーダブ手法を用いた曲。
パティ・ペイジの1958年ヒット曲のカヴァーである(10)は、女性コーラスと桜田淳子がユニゾンしており、どちらがメインボーカルなのか良く判らないという、実験的(?)な作品だ。あきらかに淳子が歌っていない箇所があったり、女性コーラスと歩調していない箇所があったりと、完成度もイマイチで、本アルバムに収録した意図も良く判らないが、一度聴くと忘れられないインパクトはある。
桜田淳子が作詞を担当した(11)がB面のハイライトだろうか。メルヘンチックな歌詞も、それに見合ったメロディーも実に愛苦しい。ハニカミながらレコーディングする彼女の姿が目に浮かぶような微笑ましい一曲。
ラストナンバーは、1973年に大ヒットしたチェリッシュでお馴染の(12)。悪くは無いのだが、オリジナルのイメージが強すぎて、カヴァーとしては凡庸な印象を受けた。桜田淳子自身、この歌をレコーディングしていた事を全く覚えてないそうだ。
<ボーナストラック>
ボーナストラックに収録された(13)~(20)は、1974年7月5日に発売された初のベストアルバム「グランド・デラックス」のB面から。
一部を除き、ほぼ同時期にヒットした作品のカヴァーで、浅田美代子(13)、天地真理(14)、ポール・ポーリア(15)、ビージーズ(16)、ザ・チューリップ(17)、森田健作(18)、ガロ(19)、フィンガー5(20)と、洋邦もジャンルも問わないバラエティ豊かなラインアップだ。
いずれの曲も独自アレンジを施しており、オリジナルと比較しながら聴くのも一興。
桜田淳子が歌っても違和感が無い(13)や、逆に違和感が楽しい(15)(17)(19)など感想は様々だが、リスナーによって好き嫌いの差が激しそうなので、コメントは差し控えよう。
これらの曲が今回のボーナストラックとして収録された理由は、オリジナルフォーマットにカヴァー曲が多い為だと思うが、私的には続けて聴くのをお勧めしない。オリジナルアルバムとベストアルバムのプラスαはコンセプトが全く違うので、あくまで別物として捉えないと「淳子と花物語」の良さを見失うだろう。

以上の様に、A面については申し分ないほど充実した曲が集まった。
CD以前のアルバムは、B面を聴くためにレコードをひっくり返す煩わしさがあって、どこのレコード会社もそれが判っていたためか、A面に売れ筋の曲を収録し、B面は凡庸な曲を配置する傾向があった様に思う。
残念ながら本アルバムもやや同じ傾向にあり、A面で高揚した気分をB面でキープすることは出来なかったが、その点を差し引いても、時代の先端を行くポップス歌手への成長が垣間見える、キュートで楽しい作品群だ。
尚、アルバムジャケットは裏面の方が良いと思うのだが如何だろうか?
Preference Ranking ★★★★★★★☆☆☆
※上記ランクはアルバム完成度の"評価"では無く、私がどれだけ気に入っているかを示しています。
又、オリジナル盤に収録された曲のみを対象としており、ボーナストラックの内容は考慮していません。